札幌工場には、様々な業者さんが出入りしています。50年以上付き合いのある工具屋さんをはじめ、塗料屋さん、灯油屋さん、建築屋さん、保険会社や銀行の担当者、さらに毎日昼飯を届けてくれるお弁当屋さん・・・夕方近くになると運送業者さんが、その日お客様に出荷する荷物の集荷に訪れます。みなさん、工場を陰で支えて下さる縁の下の力持ちで、感謝、感謝の毎日です。

当たり前のことですが、業者さんたちは要件を済ませるとすぐに帰ってしまいます。忙しく働いている私たちの仕事の邪魔をしないように、配慮してくれているのかもしれません。
帰り際にちらっと、工場内に目をやる程度ですから、この工場が機械の組立て・整備工場であることは知っていても、それ以上の細かいことを、多くの業者さんはご存じないようです。

でも、いつか大雪で市内の幹線道路がマヒしていた時に、工場に立ち寄って時間をつぶしていた、ある顔馴染みの業者さんが、ふとつぶやくように発した一言には考えさせられてしまいました。

「この工場では、御社が販売した機械の修理も引き受けているんでしょう? 今日も、ずいぶんたくさん修理品が並んでいますね。」

その日、お客様からお預かりしていた修理依頼品はミニ旋盤1台だけでしたので、妙なことを言う人だと思いましたが、言っている意味がすぐにわかりました。

丁度この日に、海外から輸入した旋盤3台を開梱して、整備を開始したのですが、この業者さんは、これらの機械を修理依頼品だと勘違いしたのでした。言われてみれば、塗装も汚いし、一部に錆びも浮かんでいるので、新品には見えないのは当然です。でも、紛れもなく新品です。
これらの旋盤は、私たちが手掛けている数ある機種の中でも、整備前の状態がワースト1の曰く付きの機械です。でも、スペック的には手頃で、捨てがたい機種でもあります。これから何日間かかけて、この機械を、精度はもちろん、動きや塗装に至るまでピカピカに仕上げていくのです。

いま流行のダイエットのCMで、トレーニング開始前のぶよぶよの体が、数か月後に引き締まった健康体に激変するというのがありますが、まさに、そんなイメージです。

「ここにある機械は修理品じゃないですよ。先週、海外から工場に到着したばかりの新品ですよ」というと、その業者さんは、信じられないという表情をして絶句してしまいました。そして、そそくさと立ち去ってしまいました。

窓の外を見やると、依然、雪は止む気配がなく、工場前の通りでは、相変わらず渋滞の車列が続いていました。