かつて、札幌工場の敷地内にはニセアカシアの巨木が自生し、森の中にいるような気分を味わえる空間が存在しました。まさにオアシスでした。敷地内にスズランの花が自生し、初夏になると白い花が咲き乱れ、工場の裏手には社員が植えたブドウやプルーンの木々が育ち、秋になると大量の実をつけたものでした。これが、東京以北最大の歓楽街であるススキノからわずか1.5kmの市街地の一角なのかと疑いたくなるような風景でした。ところが、新工場の建設や老朽化した倉庫の取り壊しなどに伴い、少しずつ樹木が減り、今ではニセアカシアもプルーンの木もありません。それでも残された木々は大事にしようと、いろいろ手をかけてきましたが、様々な原因で、やむを得ず木々を切り倒すということを繰り返してきました。例えば、秋になると大量の落ち葉や木の実が周辺にまき散らされるので困っていると近隣にお住まいの方々に言われ、やむなく切ったことがありました。また珍しく北海道を直撃した台風のお陰で、木々が折れたり、倒れかけたりしたため伐採したこともありました。
ある時、警察の方から、防犯上の理由で工場裏手に生い茂る桑の木を全て伐採した方がよいといわれたことがありました。木々のお陰で死角になる部分があるという理由でしたが、正直いってやや抵抗がありました。結局、一部の木だけを伐採し、見通しをよくするにとどめました。防犯上の理由といわれれば、無視する訳にはいきませんが、やはり木々が減っていくのが耐えられません。
世間にはもっともっと緑豊かで、環境に恵まれた工場が、数えきれないほどあると思いますが、都会の真ん中にある工場に残された緑はやはり貴重です。工場の緑は、私たち社員の心にうるおいを与え、それがよい仕事につながっていると思っています。ですから、工場の緑の保全も、品質管理と同じといえるでしょう。工場の緑を守ることも私たちの隠れた課題のひとつです。