私たちが手掛ける小型工作機械のユーザ様は、いわゆるプロの熟練した技能者よりも、工作機械に不慣れであるにも関わらず、仕事上の必要から切削加工に挑戦されている方々が多いようです。
旋盤やフライス盤の初心者も少なくありません。
時々、旋盤やフライス盤の購入を検討しているお客様から、イメージしている部品を高い精度で加工することが可能かどうか、といった御質問を受けることがあります。
これに対する回答は、「精密工作には高い技能が必要ですので、お客様ご自身が、試行錯誤を繰り返し、切削加工の腕を上げて頂かないと高精度に仕上げることは困難です。」という、やや突き放した言い方になりがちです。
楽器と一緒です。
そんなことで、ご購入を断念されたお客様も少なくなかったかもしれません。
商売上は、嘘でも(!)“美しい”話をして、販売に結び付けたいところですが、この点に関しては、今まであまりお客様に期待を持たせるような営業トークをしてきませんでした。
ところで、先月、東京工業大学名誉教授で、ロボコン博士としても有名だった森政弘先生がお亡くなりになりました。
森先生は、弊社の工作機械の古くからのユーザであり、東京のショールーム(寿貿易)にも、何度かお見えになったことがあります。
先生が著した「ロボコン博士のもの作り遊論」という本には、“立派な取扱説明書”として、当時寿貿易で販売していたミニ溶接機のことが取り上げられています。
そこには、「この溶接機を使いこなすには、溶接の原理と使い方を理解し、溶接作業経験を重ね、溶接技術を身に着ける必要がある」という意味のことが書かれています。
先生は、このような内容が取扱説明書に書かれていることを、“技術的良心”という表現で、高く評価して下さっています。
工作機械も溶接機も道具です。
どんな道具でも、最初はうまくゆかず、使いこなすにはそれなりの経験や練習が必要です。
お客様にとっては耳障りかも知れませんが、これからも、本当のことを正直に言い続けていくことになると思います。
*『ロボコン博士のもの作り遊論』森政弘著 オーム社 1999年11月11日 p220-221
心より、森政弘先生のご冥福をお祈り申し上げます。
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